時計じかけのオレンジ

退廃した近未来。独特のセンスあるファッションに身を包み、キレのあるスラングで相手を捲し立て、暴力とベートーヴェンを愛する若者「アレックス」が、仲間たちと無茶苦茶やってムショに入って、洗脳更生され出所して、これをチャンスにと色んな人に復讐されたりして、気が狂いそうになって自殺を決行するが失敗し、最終的には元の悪党に戻る、というお話。


主人公のアレックスはカッコイイし、スラングもオモロイし(劇中のスラングについてはここ参照)、映像のセンスもいいし、アウトロー話は大好きなので「こりゃ傑作じゃ!」と言いたいところなんだけど「んー、どうかなー」という部分も。どんなにポップに描いていても、アレックス達のやってる事って、全くシャレになってないからなぁ。チーマー連中をボコボコにするのはイイにしても(珍走団とかも標的にしたら尚イイですね)、ホームレスのジイさんにトルチョックかましたり、作家夫婦の家を襲撃して妻をレイプし(後に死亡)、夫のほうも不具にしてしまうなんてのは、コンクリ殺人の連中ほどではないにしても、鬼畜外道の行為なわけで。「ファイトクラブ」ぐらいの無茶だったら、お茶目だし、それなりに微笑ましく観られるんだけど、この映画はそういう部分では気分悪い。けど、そこがこの映画のキーポイントとも言えるか。


「ちょっとこれは許せないよね」という犯罪行為に対して、どうリアクションするかの問題。


仁義なき戦い」なんかだと、あんまりシャレになってない事をやらかした奴は、ヤクザ社会の中で制裁を受けるか、報復を受けるかするし(もちろん例外はいるが)、そこが面白いところなのである。しかしアレックスはそういう社会には住んでいない。仲間に裏切られて刑務所に入っても、猫被って、刑務所内の神父に気に入られる始末(大人しくしていれば知的に見えるし、実際それなりに教養もあるからねぇ)。で、どういう制裁を受けたかというと、暴力やレイプなどの犯罪行為をしようとすると嫌悪のあまりロッパーしそうになるよう、「洗脳」されるのだ。

この洗脳を受けた後、両親の家に帰ったら別の奴が住んでいて追い出されたり、トルチョックかましたジジイに復讐されたり、昔の仲間が警官になっててイジメられたり、助けを求めて入った家が例の作家夫婦の家で殺されそうになったりして、苦しんだ挙句、自殺をするまで追い詰められる。だが結局、自殺は未遂で終わる。それで、ああ自殺するまで追い詰めて悪かったね、洗脳は良くないねとなり、アレックスは政府にも許されて、根本的な改心もせず、因果応報としての制裁も受けずに終わってしまう…。


『完璧に治ったね』


こんなオチじゃショボイでしょ! もっと徹底的に虐めなきゃ。他のチーマーに逆トルチョックくらって16/17殺しの目に遭うとか、ホモ囚人にレイプされてお稚児さん状態にされるとか、ロボトミー洗脳手術受けて「これはなんぼなんでも哀れだろ」と思うぐらいの白痴と化すとか、そういう真の地獄を見た上で、それでもなお「俺はアルトラ(超暴力)に生きるぜ」となったら、俺も拍手喝采するんだけど(ロボトミーだとさすがに無理ですかね)。

なので全面的に最高というわけにはいかないけれど、それでも十分に魅力的な作品なので、観てない人は観るといいんじゃないですかね。ええ。


※ところで今気づいたが、「凶気の桜」ってこれのパクリだったんだね。あっちはオチが「あんま調子のってるとヤクザとか殺し屋にシメられる」だったので、その点ではテーマ的に正しい作りだったと言えるかもしれない。でも映像とか役者とかセンスとかがアレなので、作品自体はどうにもこうにもでしたが。